色 | ファイル名 | 台詞 |
nar1-01 |
寂れたアパートの一室、その小さな部屋には、ある少年が暮していました。彼は「人魚姫」が大好きで、絵本がぼろぼろになるまで、何度も何度も繰り返しては読んでいました。けれど彼は、ずっと思っていたのです。こんなに心優しい人魚姫。最後は泡になって消えてしまうけれど、もしも王子様と想いが通じ合っていたならどうなっていたのだろう、と。 それから数年後。童話作家になった彼は、ひとつの物語を紡ぎ始めます。それは、幼い頃何度も想像した物語。王子様と結ばれ幸せになる、人魚姫のお話でした――・・・ |
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OP曲(カットイン→カットアウト?) | ||
ray1-01 | 真珠の君へ もうひとつの人魚姫 | |
SE:泡の音(フェードイン→ナレーション中にフェードアウト) | ||
nar1-02 |
深い深い海の底、太陽の光も届かないその場所は、けれど、いつも美しい光で溢れていました。色鮮やかに網を張るサンゴの木やゆらゆらと踊り舞う海草の森。その間を縫うようにして泳ぎ回る魚たちは、空を飛びまわる鳥にも劣らない優雅さです。そして中でも一番目を引く、琥珀の窓に彩られた大きなお城には、王様とお妃さま、そして6人のお姫様たちが暮らしていました。そこは、人魚の国でした。 人魚のお姫様たちは、15歳になって成人すると、人間の世界に浮かび出ることを許されていました。6人の中でも一番人間の世界に興味を持っていた末のお姫様は、先に人間の世界を見てきた姉達の話を聞くたびに、早く自分も見に行きたい、と思っていました。 そしてそんな末のお姫様にも、待ちに待った15歳の誕生日がやってきました。ようやく王様からお許しをもらった末のお姫様は、喜びと期待で胸をいっぱいにして、泡のように水の上へ昇って行ったのでした |
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BGM(ナレーションの終わりに被せてフェードイン) | ||
SE:マルグレーテが水面から顔を出す | ||
mar1-01 | ふう・・・ここが、人間の世界。・・・なんだかキラキラしてるわね。あ、もしかしてあれが「星」っていうもの?凄いわ、本当に綺麗なのね。姉さまたちが言った通り!・・・そう、よね、私、本当に人間の世界に来たんだわ。やっと自分の目で見れるのよね!どうしよう、なんだかドキドキしてきたわ。(深呼吸)・・・ん?向こうに何か浮いてる。・・・あ、きっと、あれが姉さまが言っていた「船」ね。私たちのように泳げない人間が、海を渡るのに使うっていう・・・。あの船には、一体どんな人が乗っているのかしらね。・・・ちょっと覗いてみようかな | |
BGM(船上の音楽)(徐々に大きく) | ||
SE:ざわめき(BGMに合わせてフェードイン) | ||
ext1-01 | それでは王子、良い夜を | |
alb1-01 | うん、君もね | |
ray1-02 | アルベルト王子、16歳のお誕生日、おめでとうございます。パーティーは楽しんでおられますか? | |
alb1-02 | あ、レイモンド。もちろんだよ。皆が僕を祝うために心を砕いてくれてるんだ、楽しいに決まってるよ | |
ray1-03 | 嬉しいお言葉ですね。王子がご立派に成人なさったこと、臣下としてとても誇りに感じていますよ | |
alb1-03 | ありがとう。でも僕は君を兄のように思っているんだから、君には兄として祝福された方が嬉しいな。こんなこと言っちゃ駄目なんだろうけど、なんだか距離を感じて寂しいよ | |
ray1-04 | そうですか?(笑いを含んで)では、兄として。弟の成長を嬉しく思っていますよ | |
alb1-04 | (嬉しそうに)うん、ありがとう。ところで、足の方は大丈夫なの?いくら大きいとは言ってもやっぱり船だから、多少は揺れるし、負担になるだろう?なんだったら、中へ入ろう | |
ray1-05 | いえ、今日は調子がいいのです。それに、せっかく船に乗っているのにずっと中に籠りっきりではもったいないでしょう? | |
alb1-05 | そう?だったらいいんだけど・・・ | |
BGM 徐々に小さく | ||
mar1-02 | わあ、あの人、凄く綺麗な顔ね・・・髪も瞳も真っ黒な人なんて初めて見たわ。しかも、凄く優しそう。あんなに素敵ってことは、きっとあの人は人間の国の王子様ね | |
SE:大きな波 | ||
mar1-03 | 何の音?[楽しげに]わ、大きい波。凄いわね | |
ext1-02 | きゃああ | |
ext1-03 | 高いぞ、早く中へ逃げろ! | |
alb1-06 | みんな急いで! | |
mar1-04 | ・・・って、大変!そういえば人間は、私たちみたいに泳げないんだわ! | |
alb1-07 | うわあ・・・っ | |
ray1-06 | 王子! | |
SE:波 | ||
mar1-05 | 王子様! | |
SE:マルグレーテが海に潜る | ||
SE:泡の音(海中) | ||
mar1-06 | どこ?どこに落ちたの? | |
mar1-07 | !いた・・・! | |
SE:水面から顔を出す | ||
mar1-08 | [悲痛になりすぎず、驚きもあり]っ、王子様!しっかりして、ねえ! | |
alb1-08 | ん・・・ | |
mar1-09 | !大丈夫!? | |
alb1-09 | きみ、は・・・(王子、気を失う) | |
mar1-10 | 王子様!?・・・あ、なんだ、気を失っちゃっただけみたいね。よかった・・・。それにしても、近くで見るとますます綺麗だわ・・・ | |
ray1-07 | 王子!どこですか、アルベルト王子! | |
man1-00 | ご無事ですか!? | |
ext1-04 | 王子! | |
mar1-11 | いけない、みんな探してるわ。でも、人間が私の姿を見たら、びっくりしちゃうだろうし・・・。・・・仕方ないわ、とにかく岸に行けばなんとかなるわよね | |
SE:泳ぐ | ||
SE:波打ち際(フェードイン) | ||
mar1-12 | ええっと、どうしよう・・・ここに寝かせておけば、誰かが気づくかしら・・・でも、風邪をひいちゃったら困るし・・・ | |
ray1-08 | 船を沖に戻してください!やっぱりわたしも王子を探します! | |
man1-01 | いけません。レイモンド殿は足がお悪いのですから、また高波が来て海に落ちたらどうしますか。泳げなければ、あなたまで溺れてしまいます | |
ray1-09 | しかし・・・! | |
mar1-13 | あ、あの人は確か、さっき王子様と一緒にいた人だわ!よかった、これで助かるわね | |
man1-02 | ・・・あれ?岸に人影が・・・ | |
ray1-10 | え? | |
mar1-14 | い、いけない!隠れなきゃ・・・! | |
SE:潜る | ||
ray1-11 | えっ、あれは・・・ | |
man1-03 | あれ?レイモンド様、岸に誰か倒れていませんか? | |
ray1-12 | え?・・・王子!?どうしてこんなところに・・・ | |
SE:砂浜をよろけつつ走る | ||
ray1-13 | 王子、しっかりして下さい、アルベルト王子! | |
alb1-10 | ん・・・?レイモンド・・・? | |
ray1-14 | そうです、王子。ああ、無事でよかった・・・。あなた、王子が見つかったとすぐに連絡してください | |
man1-04 | は、はい! | |
ray1-15 | お怪我はありませんか? | |
alb1-11 | うん、大丈夫みたいだ | |
mar1-15 | (よかった、これで大丈夫ね。空も明るくなってきたし、私もそろそろ帰らなきゃ・・・。王子様、また会えるといいな) | |
SE:マルグレーテが泳いで帰る | ||
BGM:海中 | ||
one1-01 | 末姫?どうしたの?そんな顔して | |
mar1-16 | 姉さま | |
one1-02 | 海の上から帰ってきてからずっとそうじゃない。あなた、成人するのをあんなに楽しみにしていたのに、人間の世界で何か嫌なことでもあったの? | |
mar1-17 | いいえ、そういう訳じゃ、ないわ | |
one1-03 | そうなの?でもみんな心配してるのよ。帰ってきてから、あなた急に笑わなくなっちゃったから。あなたが悲しい顔をしていると、私も悲しいの。何か悩み事があるなら私に相談して? | |
mar1-18 | 姉さま・・・。・・・あ、あの、実は私・・・人間の王子様に、その・・・恋、してしまったみたいなの | |
one1-04 | まあ、人間の王子様に? | |
mar1-19 | でも、どうしたらいいかわからなくて。あの人は人間なのに、私は人魚だなんて・・・ | |
one1-05 | あなたは、どうしたいの? | |
mar1-20 | ・・・王子様に会いたいわ | |
one1-06 | だったら、会いに行けばいいじゃない | |
mar1-21 | ・・・え? | |
one1-07 | 会いたいんでしょう?だったら会いに行けばいいのよ。恋をするのは素敵なことなんだから、気持ちはちゃんと大事にしないといけないわ。種族なんて関係ないわよ。だから、会いに行きましょうよ | |
mar1-22 | で、でも私、あの人がどこにいるのかも知らないのよ | |
one1-08 | だったら探せばいいだけよ。私も一緒に探しに行ってあげるわ。さあ、そうと決まったら早い方がいいわね。早速行ってみましょう | |
mar1-23 | え・・・? | |
one1-09 | もう、ほら、早く行くわよ | |
mar1-24 | えええっ!? | |
BGM フェードアウト | ||
SE:海っぽい音 | ||
one1-10 | じゃああの人が、噂の王子様? | |
mar1-25 | ええ・・・! | |
one1-11 | 見つかってよかったわね。居場所さえわかってしまえばこっちのものよ。いつでも会いに来れるわ。まあ、会うと言ってもこちらから一方的に見るだけだけど | |
mar1-26 | ううん、それでも嬉しい!ありがとう、姉さま! | |
one1-12 | やっと笑顔になったわね。本当に、世話の焼ける子なんだから。・・・それにしても、あの王子様、綺麗な顔ね | |
mar1-27 | やっぱり姉さまもそう思う? | |
one1-13 | ええ、歳はあなたと同じくらいかしら・・・まだ幼い感じはするけど、成長すればかっこいい青年になると思うわ | |
mar1-28 | それだけじゃないのよ、その上すっごく優しそうなんだから。初めて見た時も、ずっとにこにこしていろんな人とお話してて。笑顔がまたね、素敵なの! | |
one1-14 | そうなの | |
mar1-29 | ええ! | |
one1-15 | さあ、でも今日はもうそろそろ戻りましょう。皆に何も言わずに来てしまったから、心配しているかも知れないわ。王子様には、またいつでも会いに来られるんだし | |
mar1-30 | はい、姉さま! | |
SE:姉1が去る | ||
mar1-31 | (好きな時に王子様に会えるなんて、きっと毎日会いに来ちゃうわ) | |
BGM:海中(流したまま間) | ||
three1-01 | 末姫ったら、また上の世界に行ってるの? | |
four1-01 | ええ、そうみたい。あれからもう何日かしら。突然元気になったと思ったら、今度は一日中海の上に遊びに行くようになるんだもの。毎日よく飽きないわよね | |
two1-01 | 人間の王子様を見に行っているんでしょう?好きになるのはまあ、自由だけど、あの子が馬鹿な考えを起こさないかが心配だわ・・・ | |
three1-02 | 馬鹿な考えって、もしかしてあの魔女のこと・・・? | |
two1-02 | ええ。あの子ったら、最近人間になりたいっていうようなことを言っていたから・・・ | |
five1-01 | お姉さま! | |
two1-03 | まあ、どうしたの?そんなに慌てて | |
five1-02 | 大変よ!あの子が・・・末姫がいなくなったの! | |
BGM:魔女の棲みか | ||
mar1-32 | やっぱり、魔女の棲みかなだけあって不気味な場所ね・・・。どうしても諦めきれなくってきちゃったけど、こんなところに住んでいるような人にお願いするなんて、ちょっと不安かしら・・・ | |
hek1-01 | おや、お客さんかい? | |
mar1-33 | きゃっ!? | |
hek1-02 | ああ、驚かせちまったかい、悪かったね | |
mar1-34 | え、ええっと、もしかして、あなたが魔女? | |
hek1-03 | いかにも。おや、お前、何か悩みがあるようだね。あたしで助けになれるならいくらでも力を貸してあげるよ | |
mar1-35 | 本当に?魔女は意地悪って聞いたのに、あなたは親切なのね。あ、私は・・・ | |
hek1-04 | もちろん知っているよ、王様のところの6番目の娘。末のお姫様だ。それに、お前の願いもわかってるよ。人間のような足を手に入れて、人間の世界の王子様に会いに行きたい。そうだろう? | |
mar1-36 | え、ええ、その通りよ。まだ何も言ってないのに何で知ってるの? | |
hek1-05 | それはあたしが魔女だからだよ。あたしの眼は、どんなことでもお見通しさ | |
mar1-37 | 凄いわ、さすがね | |
hek1-06 | これくらい、当然のことさ。それにしてもお前、いい時に来たねえ。お前が望む薬は、今日を逃せばもう一年先まで作れなくなってしまうところだったんだよ | |
mar1-38 | えっ、そうだったの?間に合ってよかった・・・ | |
hek1-07 | ああ、お前は運がいいんだね。さあ、すぐに作ってやろうじゃないか | |
mar1-39 | 私はその薬を飲めばいいの? | |
hek1-08 | ああ。ただし、日の出る前に、岸でね。そうすれば、お前のそのしっぽが人間みたいな足に縮まる | |
mar1-40 | それだけで?本当?凄いわね! | |
hek1-09 | ただし、だ。その時は鋭い剣で刺されるみたいに痛いだろうし、歩くときだって、刃物を踏むようで、いまにも血がながれるかと思うだろうね。それをみんな我慢する覚悟は、お前にあるのかい? | |
mar1-41 | そ、そんなに痛いの? | |
hek1-10 | そりゃあ、持って生まれたものを変えようっていうんだからね | |
mar1-42 | ・・・それは確かに、そうよね。・・・ええ、わかったわ。王子様に会うためなら、どんなことだって耐えて見せます | |
hek1-11 | 頼もしいね。ただし、覚えておいで。お前はいちど人間の姿になれば、もう二度と人魚には戻れないから、海の深くに潜って、家族のいるお城へも帰ることはできない | |
mar1-43 |
あ・・・ (今更気づく) |
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hek1-12 | それから王子の愛情にしても、お前のことを何よりも深く愛して、結婚したいとまで思ってくれなければ駄目だ。もしも、王子がほかの女と結婚するようなことにでもなれば、その翌朝には、お前の心臓は破れて、お前は泡になってしまう | |
mar1-44 | ・・・覚悟、しておくわ | |
hek1-13 | (切り替え)ところで、報酬のことだけどね | |
mar1-45 | 報酬? | |
hek1-14 | まさかあたしが、ただでお前を助けてやるつもりだなんて思っていたのかい?そんな都合のいい話はないよ。こっちだって商売だからね。お前の願いは叶えてやりたいと思うけど、報酬はきちんと渡してもらえなきゃ困る | |
mar1-46 | でも私、あなたにあげられるようなものは何も持ってないわ | |
hek1-15 | いいや、とっておきのを持っているじゃないか。聞けばお前は、大層歌が上手いらしいね。声だって、今話しているのを聞いたらとても綺麗だ。その声を、代償として頂こう | |
mar1-47 | え、で、でも、声をあげちゃったら、私には他に何が残るの? | |
hek1-16 | なあに、心配ないよ。お前の姿は、人間たちが見ればみんながみんな息をのむほど美しい。声なんかなくたって、その 、ものを言う目があれば王子様だってお前に惑わされてしまうだろうさ。まあでも、お前が無理だって言うならこの話は無しにするしかないね | |
mar1-48 | ま、待って!・・・私の声でいいなら、あげるわ | |
hek1-17 | (してやったりな感じで) よーし、よく言った。それじゃあ早速、お前のための薬を作ってあげよう。とってもよく効く、とっておきの薬だ。期待して待っておいで |